生活習慣病発症のスタート地点
ラット腸間膜由来の内臓脂肪細胞を使い、内臓脂肪細胞がどのような条件の時に作られ、さらにどのような条件で悪玉脂肪細胞に変貌するのか、invitro(試験管レベル)で再現する実験を行った結果が、以下のグラフです。
脂肪細胞の成長と、産生されるアディポネクチン量の変化
これはラットの腸間膜から分離した脂肪細胞に、栄養素を与えて培養し、脂肪細胞が産生するアディポネクチンの量を時間と共に測定した結果です。
培養初期は、脂肪細胞の分化(増殖)が進むに従って、産生されるアディポネクチンの産生は増えていきますが7 日前後でピークに達してその後急激に落ちていきます。
ある程度までは脂肪細胞の増殖とアディポネクチンの量は比例関係にあるわけですが、脂肪細胞が一定の量を越えると、脂肪の過剰蓄積状態となり、同時に一気にアディポネクチンが作られなくなってしまうという、衝撃的な結果です。
脂肪の過剰蓄積が始まると、同時に血管の新生が行われるようになり、心臓の負担増が始まります。
一般に、体重が1kg 増えるごとに毛細血管も含めた血管が3km伸びると言われます。その分、心臓が血液を送り込まなくてはならない器官(細胞)が増えることになります。
肪が単に油の貯蔵庫であるならば、これほどの血管新生は必要ありませんが、生きている細胞であるがゆえの機能なのです。
私たちは、アディポネクチン産生が急激に落ちるこのピークの時点を、『生活習慣病発祥の原点』と考えています。この状態から脂肪組織は慢性の炎症状態となり、各種の炎症性サイトカインが分泌され始めます(『炎症』と呼んでいますが、脂肪細胞の正常なレスポンスとも言えます)。
この状態が各種生活習慣病の基本病態です。
この時点で脂肪細胞はエネルギーの蓄積の必要がなくなりますので、エネルギー蓄積ホルモンであるインスリンに対して抵抗性となり、そればかりか同時にアドレナリン抵抗性にもなることが分かりました。
アドレナリン抵抗性をもつということは、過剰に増殖してしまった脂肪細胞が、蓄積とは反対の作用である、分解する事も阻害されることを示します。
つまり、肥大した脂肪細胞は、もはやなかなか小さくならなくなってしまうのです。
メタボリックシンドロームという生活習慣病を川の流れに例えて言うならば、最も上流にあるものが腸間膜脂肪細胞、そして脂肪細胞が作り出すアディポネクチンの欠乏が、川の下流まで下ってきたときに、生活習慣病となって現れるわけです。