臓器の寿命を考える
腸に限らず、ヒトの臓器の寿命は生まれた時から遺伝子情報で決められています。
体内に老化しない臓器はなく、老化して重要な臓器が機能を停止すれば、それはすなはちその人が寿命を迎えたことになります。アンチエイジングを試みて、食生活や生活習慣などを改善することで多少の違いは出てくるかもしれませんが、持って生まれた寿命を大幅に引き延ばすことは困難です。

脳の臓器としての寿命は125歳とも言われていますので、すべての臓器を人口臓器に置き換えたとすれば、ヒトは125歳くらいまでは生きられるのかもしれません。現代医学も進歩して、感染症を予防しトラブルを早期に発見することで、臓器の寿命を延ばすことには貢献していますが、遺伝子に書かれたプログラムを変更するまでには至っていません。
近い将来、遺伝子情報を書き換えて、ヒトの寿命がコントロールされる時代が訪れるかもしれませんが、いまの私たちがプログラムされた天寿を迎えるためにできることは、これもまた、それぞれのプログラムに基づき持って生まれた免疫力を最大限に活用することしかありません。
つまり若い頃のように、常に高い免疫力を維持していることになります。
そのためには、免疫関係最大の臓器と言われる腸の本当の働きに着目し、最も効率良く免疫のスイッチを入れる方法をご紹介したいと思います。
免疫のスイッチを入れる方法の候補として考えられることとして、腸内細菌の作り出す生産物質(代謝物)が挙げられます。
腸内細菌の作り出す生産物質のなかでも近年、腸内の乳酸菌が作り出す短鎖脂肪酸には注目が集まっており、短鎖脂肪酸には腸内を弱酸性の環境にして有害な菌の増殖を抑制したり、大腸の粘膜を刺激して蠕動運動を促進する、ヒトの免疫反応を制御する、など様々な機能があることが知られるようになりました。
この短鎖脂肪酸について、英国の研究者であるRampelliらが高齢者の糞便のメタゲノム解析を行い、加齢により変化する腸内細菌の遺伝子の変化を調べてみたところ、短鎖脂肪酸産生の生成に関連する遺伝子そのものが欠如していることを発見しました。
加齢によって腸内細菌の中の短鎖脂肪酸産生を生成する遺伝子が欠如する、ということはすなはち、老化した腸内細菌はもはや腸内で短鎖脂肪酸などの代謝産物を生成することができない、ということになります。
このように、腸内フローラを構成する腸内細菌叢の機能や数の変化は、遺伝子レベルでの変化が引き金になっていることが判明したわけです。
残念ながら、他の臓器と同様に腸内細菌もまた老化することが明確になったわけです。
実際、腸内細菌の生成する産物は短鎖脂肪酸だけではなく、また短鎖脂肪酸だけが免疫の制御を行っているわけではありませんが、老化した腸内フローラはもはや、若い頃のようなヒトに有益な代謝産物を腸内菌に作らせる、遺伝子そのものが失われてしまっているということが分かったのです。 これらの代謝産物を作り出している腸内細菌は加齢によって、遺伝子レベルでその役割である代謝産物を生成する能力が失われてゆくものと考えられます。
言い換えれば、老人の腸内フローラは加齢に伴い老化していき、その老化した腸内フローラはもはや、若い頃のようなヒトに有益な代謝産物を腸内菌に作らせる、遺伝子そのものが失われてしまっているのです。