健康と食事を考える
糖尿病などの生活習慣病をターゲットとして、医者や学者がよく口にするのは「運動とバランスのとれた食事」という言葉です。 同じ言葉を、あらためてここで繰り返すつもりはありません。
健康を守るのは市販のサプリメントではなく食事だということ、それは誰でも分かっています。 私たちは宇宙飛行士ではないのですから、野菜や魚も肉だって、金魚の餌のようなドライフードではなく、自然の食品が一番良いに決まっています。 また運動にしても、各自に毎日運動ができる環境があれば、これほど通販で健康器具が売れたりはしないでしょう。
入院患者ならば、定期的な運動指導も可能でしょうが、現代人にはきれいごとにしか聞こえません。
仕事や家事、育児など変えようのない生活習慣、また安くて調理が簡単な食が横行する食文化の中で、理想論を言われても、どうしようもないのが現代人の生活なのです。
さらに考えなくてはならないのは、その様に具体性に欠ける運動や食事のバランス指導に従うだけで、果たして本当に生活習慣病から回復し、健康を維持できるものなのかということです。
飽食の時代と言われますが、誰もが大食漢になり生活習慣病になったわけではありません。
日本では、ここ50年で総脂肪摂取量が3倍に増え、特に動物性脂肪は8倍にも増えたというデータがあります。
モータリゼーションの発達とともに、気がつかない間に忍び寄る運動量の低下と食生活の変化。
自分で意識してはいない生活習慣の問題を無責任に指摘されても、直しようがありません。

このホームページでは生活習慣病の根本原因や対策を見直し、通常の食生活や運動量の中でも、健康を取り戻す方法をご提案したいと思います。
食事や運動だけでは補えないものがあるのも現実で、実はそこに健康回復のヒントが隠されているのです。
まず、私達にとって食事とは何かを見直してみたいと思います。
食事とはすなはち、私たちが生きていくために必要な栄養源であり、具体的には私たちの細胞の一つ一つを動かすための原動力となる栄養素です。
食事として口から入った食品は、各臓器から分泌される体内の消化液に含まれる酵素などによって分解され、大きさや成分が作り変えられて利用しやすい形となります。
食物は消化物という呼び名に変わりながら、胃や超で吸収され水分調整されて最後は弁や尿という形で体外に排泄されます。
取り入れる食事の中に含まれる糖分や脂質は100%吸収され、利用されるという前提ですから、唯一の栄養源である食事の内容によって、体のコンディションが大きく左右されるという基本的な考え方です。
これが栄養学から見た、あるいは一般的な食事の位置付けです。
私たちのもう一つの考え方は、食事由来の消化物は私たちの腸内にいる腸内細菌の餌でもある、という考え方です。
消化物として腸に到達した消化物は、腸で分泌される消化液に含まれる消化酵素などによって分解され、腸壁から吸収されます。ここまでは栄養学上の考え方と同じです。
しかし同時に、ここから消化物の腸内細菌との奪い合いが始まります。
奪い合いと言うほど積極的なアクションではありませんが、腸内細菌にとっても消化物は唯一の栄養源なのです。私たちが生きていくために食事が不可欠であるように、 腸内細菌にとっても、私たちが食べた食事が栄養素として腸に送られない限り、腸内細菌は生きていけないのです。
では、腸内細菌はそのような消化物を栄養源に、何をしているのでしょうか。
一般に、腸内細菌は大きく分けて善玉菌と悪玉菌に分けられると言われますが、ここでは善玉菌を中心に話をします。
消化物は蠕動(ぜんどう)運動と言われる腸の動きに従って押し出されるように肛門に向かって移動しますが、その間に腸内細菌は消化物を栄養源として増殖していき、数の増加に伴い量が増えていきます。
食べた物より多くの便が排泄されるのは、便の多くが腸内で増えた腸内細菌や、栄養源がなくなって死滅した腸内細菌の死骸のボリュームが増えたからなのです。
一方、それら腸内細菌は増殖をしながら、細菌自体から様々な成分(物質)を放出します。
腸内細菌が日々作り出す成分で、最近注目が集まっているのが短鎖脂肪酸です。短鎖脂肪酸には腸内を弱酸性の環境にして有害な菌の増殖を抑制したり、 大腸の粘膜を刺激して蠕動運動を促進する、ヒトの免疫反応を制御するなど様々な機能があることが判明しています。
腸内細菌の仕事の多くを締めるのが、このように細菌が特定の成分を作り出す仕事で、それらが腸壁から吸収されることで私たちの免疫力が保たれたり、様々な機能が維持されたりします。
私たちが食事を摂らなければ栄養が足らなくなり死んでしまうのは誰にも分かる理屈ですが、栄養が足りなくなって死滅するのは腸内細菌も同じです。
腸内細菌の数が減って仕舞えば、細菌が作り出し腸壁から吸収される成分も少なくなり、免疫力の低下や様々な障害を引き起こす原因になります。
栄養源としての食事が腸内細菌に与える影響は非常に大きく、糖分が少なければ良いとか脂質が少ないほうが良いなど、一概に言えない面があります。 腸内細菌との付き合いは生まれてから死ぬまで続き、そのような長い期間にわたり私たちの健康に大きな影響を及ぼす存在ですので、栄養素のバランスだけでなく、腸内細菌のことを考えた食事が必要ということになります。
これが、私たちの健康を栄養学からだけではなく、腸内細菌の働きからと言う観点で見直す必要がある理由です。
私たちの見えないところで、静かに行われている腸内細菌の働きの重要性について、 以降の章でも述べていきたいと思います。