消化と醗酵と腸内細菌
私たちの体内各所では常に醗酵という現象、化学変化が起きています。分かりやすい部分では口の中。食後、口腔内の常在菌によって食べ物のカスを栄養源として醗酵が行われ、代謝物が口臭や虫歯、歯周病の原因となっています。
一般には、虫歯菌がエナメル質や歯をバリバリ食べていくイメージで報道されますし、医師を含む多くの国民もそのように信じこんでいるのかもしれません。しかし、菌には口も手もありませんので、実際は上記の食品のカスや口腔内の糖分などを、菌の表面や内部に存在する酵素が触媒として作用しながら、分子レベルで栄養源として増殖(分裂)し、その過程で酸を代謝(放出)しながら歯を溶かしてどんどん侵食していくのです。菌が生きていくために行うこの生命活動としてのこの構図は、お風呂でカビが増殖する様子や頭皮など、体内のどこでも同じプロセスです。このポイントは確実に理解してください。
近年の研究では加齢臭を含む体臭も、単なる皮膚細胞からの汗の中の分泌物の臭いだけでなく、皮膚常在菌が垢など皮膚状の老廃物や汗腺からの分泌物を栄養源に醗酵した結果、それらの代謝物の臭いが加わるという報告もあります。
さらに体内には、生命に大きく関わるほどの大規模な発酵作業が行われている場所があります。それが『腸内』です。腸の中では腸壁から分泌される消化酵素によって、消化物を分解し吸収する作業が行われていますが、実は腸内細菌による発酵も、消化と同時進行で行われています(口から入った食べ物は、唾液による消化が始まり、名前が『食品』から『消化物』に変わります)。
消化物は口の次に胃、そして十二指腸で分泌される消化液によってさらに消化され、腸内に送られ腸内細菌による消化に加え、初めて発酵という作業が始まります。消化物の消化・発酵が進み、分解する成分が少なくなると、最終的に発酵の残りカスが便として体外に排出されます。腸内細菌や食物のバランスが崩れていると、糖分を栄養源とする乳酸菌などのいわゆる善玉菌優勢の発酵が行われず、タンパク質や油脂分を好む悪玉菌による発酵が増え、悪臭のある便やガスが作られます。この醗酵のプロセスで、特に善玉菌と呼ばれる菌の分泌した成分が腸壁から大量に吸収され、免疫機構にシグナル(信号)を送ることで、広い意味での健康が維持されているのです。若い頃は乳酸菌など善玉菌の活性度が高いため、肉などタンパク質が豊富な消化物が腸内に送られてきても、総合的な消化吸収システムが正常に働いてくれるため、腐敗菌などの餌になるより分解され栄養素として利用される率が高いと考えています。老化に伴い基礎代謝量(1日に必要な栄養源の量)が低下し、また善玉菌の活性度も低下するため、若い頃と同じ食事内容を摂っていると腸内での消化・発酵・吸収の変化が追いつかず、様々な弊害が生じてくることが想像できます。
そこで、この工程で腸内細菌から分泌される代謝物に着目し、代謝物が作られるプロセスを体外で再現したものが乳酸菌産生物質です。当社の乳酸菌産生物質は厳選されたヒト腸内由来の乳酸菌などを使って、無農薬で栽培された大豆から作った豆乳を発酵させて作ります。この栄養源としての豆乳の様に、醗酵の際に菌に分解される栄養源を培地(ばいち)と呼びます。口の中でも食べ物のカスを培地として、口腔菌による発酵が行われるわけです。ここでは、菌は培地がないと生きていけず、培地を栄養源として増殖(分裂)していく過程で、菌は代謝物を生産する、ということを理解してください。
乳酸菌産生物質はこのように、もともと腸内細菌で作られ、腸壁から吸収されている成分ですのでごく自然に吸収され、またアミノ酸やペプチド(アミノ酸の塊)としての形でしかありませんので、生きた菌ではないため既存の腸内菌から外来種の菌として排除されないので、自然な働きが可能です。
一方、培地として使用する大豆は、古来より健康食品として馴染みの深く、近年豊富なタンパク質やイソフラボン、ギャバなど多くのアンチエイジング系の機能性成分が含まれているとして注目されています。養分が豊富な大豆を培地として腸内細菌で醗酵させることにより、大豆の持っている機能性も加わります。しかしここで間違えてはならないのは、一般には発酵によって食品の機能性が高まると言われますが、食品を何かの菌で発酵させることによって機能性が高まるのは、培地としての食品側の機能が高まったのではなく、食品を培地として発酵する段階で、菌が代謝した成分が元の食品に加わっただけだということです。決して、元の食品の機能が高まったわけではないのです。ここが、一般の方が理解できていない最大のポイントかもしれません。同様のことを、別項の『 発酵はどこで起凝っているのか』でも書いてありますので、参考にしてください。
上記の乳酸菌産生物質を作るプロセスは、私たちが口から大豆を食品として食べた場合と同じ工程ではあります。しかし想像してみてください。若い10代の若者が100gの大豆を食べた時に、腸内で腸内細菌によって作り出される生産物質の持つ機能性(腸壁に与えるシグナルの量や質)と、80代の方が食べた大豆100gによって作られる代謝物の違いを。